Woman’s おすすめポイント
仕事を根詰めて行い、自分にも他人にも厳しいキャサリン・ゼダ・ジョーンズ演じるケイトが、アビゲイル・ブレスリン演じるゾーイと、アーロン・エッカート演じるニックと触れ合うことで、自分の暮らしにも目を向け始め柔らかい雰囲気になっていく物語です。ワークライフバランスが崩れるほどに仕事に打ち込みすぎている人にも、反対に仕事を適当にこなし楽しさを見出せないでいる人にも、どちらにも響くハートフルドラマです。「仕事は仕事」と思うことは、時に心を閉ざしてしまうことと似ているような気がします。心を開き、仕事も自分の”一部”と思うことで、力み過ぎない人生を送れるのかも、そう思えてくるのです。特に30代。仕事に家庭にと悩んだり、今の会社にいていいのかと悩んだり。多くの帰路が存在するアラサー世代に見て欲しい映画です。
アーロン・エッカートの不思議な魅力
アーロンは2000年の【エリン・ブロコビッチ】、2007年【幸せのセラピー】、2009年【わすれた恋のはじめかた】、2016年の【ハドソン川の奇跡】などに出演していますが、優し気な目元と、ユーモアに溢れた表情が魅力的です。【幸せレシピ】でも、ユーモアがある男性を演じていますが、ユーモアで相手を茶化すだけでなく、きちんと中身のある話もできるタイプも演じられます。シリアスな場面でも、もともと持っているユーモアがある感じが逆に対照的に映り、メリハリのあるシーンが出来上がるのも魅力です。【ハドソン川の奇跡】では、副操縦士の役をしており、そこでは割と始終シリアスな雰囲気が漂いますが、その中で少し軽い空気を出したい場面には、必ず彼がいるのです。その優し気な目元は、ユーモラスな時は真剣さを、真剣な時は少し柔らかい空気感を、少し携えているように見えるポイントなのでしょう。あっけらかんとした無邪気な男性こそ奥が深い。アーロン・エッカート演じるニックのように、とても無邪気に近づいてくる男性ほど、思いやりに溢れ、表からは見えないところでいろいろなことを考えているものです。彼の不思議な魅力に落ちる女性は多いはずです。
アビゲイル・ブレスリンの完璧な少女感
日本で、海外の子役で有名な子を挙げていけば、5本の指には入るであろうアビゲイル・ブレスリンですが、今回の役でも素晴らしい存在感を見せています。現在は24歳と立派な大人になっている彼女ですが、彼女は子役としても素晴らしい逸材でした。金褐色と呼べばいいのでしょうか、つやつやした少女らしい細い髪の毛、ブルーがかった真ん丸の目、ちょっとだけ隙間の開いた小さい前歯。全てが愛らしく、また子役とは思えなほどに”こども”でした。【幸せのレシピ】では、母親を亡くした子供、引き取られた叔母の家で馴染めない子供、叔母とその彼氏に心許し始めた子供など、一口に”こども”と言っても、難しい条件付きの”こども”でした。しかし、アビゲイルは素でそれを行えているように見えてしまうのです。ぬいぐるみを抱いて眠ったり、自分の気に入ったマフラーでないと駄々をこねる子供らしさや、叔母と彼氏の恋仲を気遣うお姉さんらしさなども、自在に扱え得てしまうアビゲイルは、まさに名子役だったと言えるでしょう。
陽気と堅物。意外にもこれらはベストマッチングな組み合わせ
自分の厨房は自分好みにやらないと気が済まない、そんな堅物な女性ケイト。女シェフということで、きっと苦労も多かったことでしょう、作中でもこう言っています。
この厨房は私の人生なの 私の すべてなのよ
ケイトが、ケイトの職をオーナーに勧められたことを黙っていたニックを責め立てるシーン (字幕版日本語訳)
そんな思いでやってきたとなれば、いつでも気を張っていたことは間違いないでしょう。それが彼女の堅物さとなり、自分にも他人にも厳しいスタイルになっているのです。
そんな彼女を、また恋する乙女に戻すのがニックです。堅物な女性ほどに、抱えている重荷に押しつぶされそうになっていたり、辛い過去があったりするもので、ニックのような陽気な心の広い男性こそが、そういった堅物な女性を受け止めてあげることができるのです。ラブストーリーの王道ともいえる、堅物女と奔放男のやり取りが、ここでも見られます。
『仕事は私の”一部”』な考えが、頑張り過ぎなあなたにも、仕事が楽しくないあなたにも響く
このお話はレストランのお話なのですが、レストランが営業をしている時間帯のお話だけでなく、レストランが開く前の時間の、料理長やウェイトレスの昼食の時間などが大変興味深いものでした。開店前のレストランで、それぞれがプレゼンのようにして、おすすめの料理の提案やオススメ文句を披露しあったり、新しいアイデアを共有したり、そしてそれらをしながら手作りの昼食を摂ったりしているシーンは、仕事をする仲間とのコミュニケーションの場を大切にしていること、そしてそれぞれが仕事に対して意見や意志を持って動いていることを観ることができます。これは、映画の中のワンシーンに過ぎないと、流してしまうこともできるのですが、このシーンは私たちに語り掛けているようにも思えるものでした。
これは日本特有の現象なのかもしれませんが、実際の仕事では、ミーティングが活気に溢れていることなどない、という人の方が多いと聞こえてきます。それでも楽しいならそのままでいいのだろうと思います。しかし、そういう人ほどに仕事は楽しくないと聞きます。ミーティングがだるいもので終わるというのは、仕事を積極的に行えば変えられることなのかもしれません。実際このレストランで働く皆は、意見し合い、皆でチームとなってレストランをよくしようとすることに積極的に見えました。そして同時に、そうして働く皆は、この仕事を好んで仕事をしているようにさえ見えるのです。
主人公は仕事に肩入れしすぎて、ワークライフバランスが崩れかけてきていました。それは本人の心や健康に害を及ぼす可能性があるため、見直すべきです。しかし、仕事と暮らしの”バランス”や”メリハリ”のことばかりを考えすぎても、自分たちの首を絞めることになりかねないのです。仕事と私生活の”バランス”や”メリハリ”を考えすぎた結果、仕事を楽しめなくなっているのですから。つまりは、仕事も自分の人生のうちの大切な”一部”と思うことができるのが、一番仕事も人生も楽しめるのだと、仕事との向き合い方についても考えさせられるのです。
この厨房は私の人生なの 私の すべてなのよ
ケイトが、ケイトの職をオーナーに勧められたことを黙っていたニックを責め立てるシーン (字幕版日本語訳)
違うね ほんの一部だ
自分の職を奪われたと思ったケイトと言い争った際にニックが言った一言 (字幕版日本語訳)
心を開くことは万物の治療法
ケイトは、仕事にも完璧を貫くがゆえに、周りから扱いづらい人と思われていましたし、ゾーイに出会ってからも、ゾーイが心を開くまでに時間が掛かっていました。その対象的なところにあるのがニックです。ニックは、職場の仲間にすぐに溶け込めましたし、ゾーイに会ってすぐに打ち解けました。つまり、心を開けない人と、心を開いている人の見える世界、置かれる状況の対比が、ここでなされているのです。実際、ケイトがニックに心を開き始めると、自然とゾーイともうまく行きますし、職場でも仏頂面ではなく楽しそうな表情を浮かべています。ニックと言い争いになったときに『心を開くべきだ』と言われたことが気になって悩んだケイトが、セラピストに相談するとセラピストはこう言います。
どうすべきかは君が一番分かってる 自分で作った”レシピ”がベストだよ
セラピストがケイトに贈る言葉 (字幕版日本語訳)
失敗しないための『人生のレシピ』が欲しいと悩むケイトへ贈ったこの言葉で、ケイトは初めて行動に出るのです。ケイトの頭の中には、どうすればよいか、どうすることが自分の望むことかが、いつもあったのです。しかし、心の扉を閉めていることで、それらが飛び出す出口がなく、いつも自分の思うこととは裏腹の態度を取っていたのでしょう。この頃にはすでに、ニックやゾーイのおかげで心の扉が薄く開いていたため、セラピストの言葉もすんなりと通り、自分の思いも吐き出すことができたのです。心を開くことで、聞こえてくる声、見える景色が違うことに、ケイトもきっと気がついたはずです。
Woman’s おまけポイント
ケイトのために、ゾーイとニックが料理を用意するシーンでは、2人が楽しくピザを作るシーンにウキウキしましたね。食事を用意すると言って、雰囲気まで作るなんて流石海外!と思ってしまいます。2人が用意した食卓”サファリ”は、テーマもあって、テーマに沿ったテントのような作りと、テーブルなしで床に布を敷いて手づかみで食べるなど、楽しめる仕掛けを作っているのが魅力的でした。ゾーイが眠ってから、ニックが手作りしてきたティラミスを、2人で大き目のタッパーから直接スプーンですくって食べるシーンは、ラブラブな2人には目もくれず、ティラミスに釘付けになること間違いなしです。
kato
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